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タバコ、このやっかいなる嗜好品。

その1

  愛煙家には生活しにくい世の中になった。タバコの害についてはいまさら言うまでもないが、ときにタバコというものは、やはりそれを愛する人間にとって、日々のくらしになくてはならないもののようである。 私の主人は53才。22才から吸い始め、現在まで一日と欠かさず、タバコとつき合ってきた。お気に入りの銘柄は「峰」。すぐに、その高貴なシルバーグレーのパケージが目に浮かんだ方は、多少ご年輩かも・・・。タール13ミリグラム、ニコチン1.0ミリグラム。軽いタバコでないことは確かである。それを一日2箱強吸い続ける。起きて一服。トイレで一服。食べて一服・・である。口からおいしそうにけむりを吐き出す主人の横顔を見ていると、なんだか恐ろしくなってくることもある。おまけに主人はイヤなセキをする。タンもからみやすいようだ。気管が細くなってきているにちがいない。結婚当初は「咽頭ガンに違いないから、一度医者に診てもらうように」すすめた。生まれてこのかた、健康診断以外で医者のもとを訪れたことのない主人はそれでも、いやいやながら医者に行った。しかし、その日会社から帰ってきた主人は勝ち誇ったように言った。「異常ナシ、だそうだ」。そして思い切りおいしそうにタバコを吸った。「まあ、タバコの数は減らせと言われたがな」。喉のポリープすらないとのこと。なんだか拍子ぬけしたような気分になった。 考えてみると、主人は毎日規則正しい生活を送っている。適度に運動をし、粗食で暴飲暴食をしない。なによりストレスをためないタイプだ。たぶん、喫煙という行為がストレスをやわらげているのだろう。 92才で死んだフィンランドの大作曲家、ジャン・シベリウスは、生涯、酒と葉巻をこよなく愛したという。あらためて高齢者に塩分制限やタバコの害を解くのは愚かなことかもしれない。年をとったということはひとつの実績であり、それまでの生活スタイルが間違っていなかったことの何よりの証明なのだから。 ちなみにタバコは歯肉の血行を悪くするので、歯科学的にもすすめられたことではないらしいが、ここでもまた「タバコを吸い続けているが、ムシ歯はゼロ。歯ぐきの状態もすこぶるいいぞ」と豪語する御仁がいるはずである。


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