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いまどきの歯科医院

その4

 最近の歯科医院はとてもキレイだ。ひと昔前のイメージとは全然違っている。昭和50年代、歯科医院といえば、あの「キーン」という金属音と先端のとがった治療用具の数々。子どもにとっては、とてもおそろしい場所だった。むし歯治療のため歯医者通いを始めた12、3才の頃、掲げられていた「○○歯科医院」という文字もまた恐怖心をそそる。「歯」が旧字体だったりすると、なおこわい。あの頃、通っていた歯医者の待合室に置かれている雑誌は新聞と子供用の絵本、1、2ヶ月前の月間誌、歴史ものの写真誌などだ。診察室に入ると、うがい用のコップがセットされている。あのちょっと重い金属製の、空になると自動的に注水されるものだ。骨張っていてお世辞にも座り心地がいいとはいえない診療椅子は、頭やひじがあたるところに白いカバーがかけられている。チラリと横目で診察トレーをみると、鋭い診察器具が並んでいる。唯一安心感を与えてくれるのは、丸いミラーだけだ。硬質なものに囲まれた診察室のなかで、大きく開け放たれた窓からのぞく緑の木々と、そこから入る穏やかな風だけが、その診察室の空気を和らげていたように思う。最近、近所の歯科医院で簡単な治療を受けた。待合室ではファッション系のグラビア誌や主婦向けの料理本が中心で、私の好きなゴシップ系週刊誌はなかった。フラット大画面のテレビには、カナダだかスイスだかのイメージ ビデオが流れている。癒し系BGMも耳に入る。思わずうとうとしかけた頃、「ハナエ・モリ」のピンクの制服を着た助手の女性に名前を呼ばれて目が覚めた。歯科医師も極めてフレンドリー。診療椅子もマッサージ・チェアのごとく座り心地抜群。うがい用のコップも紙製のディスポーサブルだ。ついでにスケーリング(歯除去)もお願いして、口中スッキリして帰路についた。こうして考えてみると、ずいぶん歯科医院のイメージは変わった。昔はあの金属コップを台に置いたとき、「ああ、これから治療が始まるんだな」と覚悟をしたものだが、今はそんな思いをすることなく治療に臨んでいる。いつの間にか歯科医院はこわいところではなくなっていた。それは私が大人になったからだろうか。いや、歯科医院は「歯を治すところ」から「歯をきれいにする」ところだというポジティブな感覚が診察される側に加わってきたからのように思う。審美歯科の分野であるホワイトニングや歯列矯正も最近、女性の間で話題になっている。いまや歯科医院を、ちょっとしたサロン感覚で訪れる人もいるのだろう。もちろん、治療である限り、「ちょっぴりコワい」という感覚は相変わらず、心のどこかにあるのだが・・・。


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