(1)審美歯科とは何か
次の話題は、骨移殖のところで少し触れた審美的インプラントです。
みなさんは「審美歯科」という歯科治療をごぞんじですか?審美的、つまり美しい歯にするための歯科治療分野のことです。歌手の松田聖子さんの再婚相手が審美歯科の医師だったことから、マスコミなどでも取り上げられる機会が多くなり、一躍有名になりました。
審美歯科のうち、特に話題となっているのは、歯を白くする治療ではないでしょうか。
薬で歯を漂白したり、歯に色がついてしまっている部分、つまり表面のエナメル部分を薄く削り、ラミネートと呼ばれる白い陶材を貼りつけて白くする方法などがあります。白い歯を求める動きは歯磨き粉やガムまで及び、その関心の高さを物語っています。
しかし審美的な歯という場合、色だけが問題となるわけではありません。歯並びや歯の形なども当然ながら見た目に影響しますから、審美歯科では歯並びを矯正したり、割れてしまった歯を接着剤で治すなどという治療も行っています。
歯を抜いたり削ったりという従来の歯科治療ではなく、審美的な意味から歯を治療していくこの分野は、1980年代の初め頃にアメリカやヨーロッパで発展してきた治療分野で、特にアメリカでは非常に盛んです。
それでは審美歯科の観点から見た美しい歯並びというのは、どのような歯並びなのでしょうか。それは、笑ったときに、歯肉のラインと歯の先端のラインがきれいな平行線を描いている歯のことで、これをスマイルラインと呼びます。このラインを美しくするために、歯肉を移植したり、整形するなどの治療が行われます。
(2)にっこり笑ったときに美しく見せるには
インプラントであれば、歯の形や歯の色を美しくすることができます。十分な検査に基づいて、適切なかみ合わせになるように義歯の歯並びを計画しますし、義歯はセラミック製なので、見た目は限りなく天然歯に近づけることができます。特に最近のセラミック製義歯は、高い技術を持った人がつくると、まったく天然歯と見分けがつかないほどです。
色に関しては他の歯との調整で色を決めますが、真っ白にすることも可能です。
骨移植のところですでに書きましたが、審美的な面から見てインプラントで問題が現れるのは、歯の長さなのです。
ここでもう一度インプラントの構造をおさらいしておきましょう。
骨に埋めこんで結合させるには、7ミリ〜20ミリぐらいの長さのフィクスチャーが必要です。フィクスチャーの頭につなげて装着するのは、アバットメントと呼ばれる長さ1ミリ〜7ミリの部品でしたね。このチタン製アバットメントが歯肉を貫通して、義歯につながります。
もしも義歯が普通よりも長くて、ねずみの歯のようになっていたら?もしもアバットメントが長くて、口を開いたときに金属でできた橋桁のように見えてしまったら? 見た目はあまり美しいとはいえないでしょう。インプラント治療ではそのようなことが起こり得るのです。
なぜそうなってしまうのかというと、歯槽膿漏などで歯槽骨がやせてしまい、歯肉の長さが減ってしまっているからです。そのような状況にあっても、歯の最先端の位置は天然歯のときと同じにしなければ、上下のかみあわせがおかしくなってしまいます。するとアバットメントと義歯を普通よりも長くしてカバーしてあげなければならなくなるのです。
じつはこの問題が起こるのは上の歯のみです。みなさん、鏡に向って笑いかけてみてください。どうでしょう。下の歯はほとんど見えなかったと思います。唇をめくらない限り、たいていの人は、下の歯の先端部分しか外から見えないのです。ですから上顎の骨がやせてしまっている場合のみ問題がでてくるわけです。
それから、インプラントには1本のインプラントに1本の歯冠がついていて、差し歯のように1本1本独立しているものと、総入れ歯のようにに数本の歯がひとつの上部構造にまとめて植え付けられていて、それを数本のインプラントが支えるブリッジ方式があります。1本1本が独立したインプラントでは、つくりものでできた歯肉の部分を長くすることができますから、見た目を天然歯に近づけることは簡単です。ところがブリッジ方式では掃除がしやすいようにという意味もあって、歯肉と義歯の間にわざとすきまをつくっています。金属の橋脚数本で入れ歯を支えているようなイメージです。
そのためにアバットメントの長さによっては、口を大きく広げると、ぽっかり開いた空間と銀色のアバットメントが見えてしまうことがあるのです。
これらのことを考えると審美的な問題が特に大きいのは、上にブリッジ方式のインプラントを入れた場合ということになります。
(3)より美しいインプラントを求めて
審美的な面の追求でもっとも進んでいるのは、やはりアメリカです。日本ではつい最近までインプラントを人体に埋めこんでいいのかという議論がなされていましたが、アメリカではそこからひとつ次の段階に進んで、より美しいインプラントを、というテーマが議論の中心だったのです。
もともと美しい歯に対しての要求が非常に強いアメリカでは、審美的インプラントも積極的に取り入れていて、治療体制も整っています。日本ではインプラント治療に骨移植を取り入れている医院はまだまだ数少ないのが現状です。
これからは、日本でも見た目がより美しいインプラントが求められてくるでしょう。
またそれに応えるだけの技術を持った歯科医も日本に育ちつつあると思います。最近ではアメリカの審美歯科の学会でも多くの日本人が参加しています。みなさんがもっとも納得できる形のインプラントをつくるため、機能だけではなく、審美的な面も応えられる体制が整いつつあるのです。
インプラント治療において天然歯と同じ機能を満たすだけならば、もはや難しいことではないということです。日本ではまだまだインプラントに対して「恐ろしい」、「危険がありそう」といったイメージがつきまとっていますが、実際のインプラント治療の世界では、危険性の問題は乗り越えて、その上でより美しいインプラントをつくろう、という段階まできているのです。
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